研究レポート

LPSの生理的作用と安全性

糖脂質(LPS)は、グラム陰性細菌だけが持っている成分で、グラム陰性細菌の外膜の外側にぎっしり埋め込まれた形で存在しています。乳酸菌などのグラム陽性細菌や酵母は持っていない成分です。構造的には、糖と脂質が結合した物質で、日本語では糖脂質またはリポ多糖といい、英語ではリポポリサッカライドで略してLPSと呼ばれます。このLPSはマクロファージなど免疫担当細胞を活性化する作用があります。LPSは、エンドトキシンという別名もあり、毒性物質と考えておられる方もあるかもしれませんが、LPSは環境中に普遍的に存在している物質です。食用植物には、まず必ずグラム陰性細菌が共生していますので、その成分であるLPSは必ず付着しており、私たちは、食事を通じて日常的にLPSを自然摂取しています。当然ながら、自然摂取されるLPSは無害です。無害なだけではなく、LPSを自然摂取することで私たちの免疫系が調節される仕組みになっています。

食用植物中の糖脂質(LPS)含量

食用植物中の糖脂質(LPS)含量

私たちの体内には、腸内細菌が棲みついていますが、腸内細菌の存在は、私たちの健康維持システムの中に組み込まれています。腸内細菌がいないと、私たちの健康は成り立たないのです。それと同様に、体の外、環境中の細菌も存在していることが前提で健康が維持されています。長い進化の歴史の中で、細菌がいる世界に出現してきた祖先は、細菌と戦うとともに、細菌を健康維持システムの一部として利用するよう進化したと考えられます。けれども、私たちの生活環境は今や劇的に変化し、現在では環境中の細菌およびその成分はかなり減ってきていると言えましょう。そしてこのことが、私たちの健康維持システムの破綻にもつながっています。その一例が、アレルギー疾患の増加です。田舎の子供と都会の子供を比較すると、都会の子供のほうが、喘息やアトピーが多いのはなぜか?1989年に衛生環境が良くなったことが原因ではないか、という「衛生仮説」が提唱されましたが(1)、2002年には、ヨーロッパでの疫学的調査によってこれが裏付けられました(2)。すなわち田舎の子供は、グラム陰性細菌のLPSを乳幼児期に自然摂取することでアレルギー体質になりにくい、ということがわかったのです。

生活環境が変わることによって知らないうちに失われたものがあり、それが原因で、それまでなかった疾患が出てきて、その原因を調べることによって、健康に重要な働きを担う物質が発見される。このような事象が過去にもあります。たとえば、ビタミンCは壊血病から、ビタミンB1は脚気から発見に至りました。ビタミンB1は、日本では江戸時代から昭和初期にかけて出てきた病気です。日本人が玄米を精米して食べるようになった結果、米の糠に豊富であったビタミンB1の摂取量が少なくなったことが原因でした。江戸時代では、真っ先に江戸が精白米食生活になっていたので、江戸に行くと脚気になる、地方に戻ると治る。このため脚気は江戸患いとも言われました。蕎麦を食べると治るということもあり、江戸は蕎麦文化になったとも言われています。ビタミンB1の存在と意義は長らくわからず、脚気は昭和初期まで国民病となっていたのです。

さて、ビタミンの発見の経緯は、LPSの意義の認知とよく似ています。生活環境の変化の中で失われたものがあり、それが原因の疾患が増加するのですが、鍵を握っている物質の存在や重要性を知らないために、なかなか原因の解明に至らなかったという点です。しかしさらにビタミンとLPSには共通点があります。ビタミンには下記のような定義があります。
@生物の生存・生育に必須な栄養素→不足すると、疾病や成長に障害が出る。
A生体内で合成することができないので、外部から取り込む必要がある。
B炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物である。
LPSはこのビタミンの定義にぴったりあてはまります。ですからLPSは「免疫のビタミン」とも言えます。

ビタミンB1の不足 LPSの不足

免疫ビタミンでもあるLPSは、食用植物では、玄米、蕎麦、海草、野菜などに多いです(グラフ)。漢方薬にも多く、十全タイホ湯については、有効成分がLPSであるという論文も出ています(3)。昔から体に良いとされてきた食物や生薬は、LPSも豊富です。

ところで、自然摂取で免疫調節の生理作用を持つLPSに、なぜエンドトキシンという別名があるのか。LPSがエンドトキシンと呼ばれたのは、グラム陰性細菌が血管内にまで侵入した場合、細菌が溶けて、血管の中で、免疫活性化作用のある大量のLPSが一時に放出され、このため強い炎症反応が起こるためです。けれども、このように、血管の中に直接大量に放出あるいは注入された場合に危険な物質はLPSだけではありません。にもかかわらずLPSだけが毒性物質のように捕らえられてきたのは、LPSが病原性の高いコレラ菌の感染の場で発見され、コレラ菌の毒性と関連付けられたことによるでしょう。また、この先入観があるために、LPSの自然摂取による本来の生理的作用の認知が遅れたとも言えます。

一方、血液の中で炎症を引き起こしかねないLPSが自然摂取では炎症を起こさないのには、きちんとした仕組みがあります。まず、消化管や皮膚など、環境との接点にいる細胞のほとんどは、LPSの刺激を受けても炎症性物質を出しません(4, 5)。むしろ抗菌物質や創傷治癒に働く有益な物質が誘導されます。次に、LPSは油にくっつきやすい性質をもっており、血液の中ではコレステロールの輸送を行うLDLがLPSを抱き込み、血液中では働かない状態になります(6)。このため、腸内にグラム陰性細菌がたくさんいて、そのグラム陰性細菌由来のLPSが微量に血液中に輸送されたとしてもLPSによる炎症反応は起こらないのです。皮膚に傷がある場合も同様で、生きて体の中で増える細菌が傷口から感染しない限り、LPSが有害事象を招くことはないのです。実際に、ラットにLPSを大量に(330mg/kg/日)1ヶ月間食べさせ続ける試験を行い、生化学的および解剖学的にまったく異常が出ないことも確認しています。

LPSの生理作用は免疫の活性化です。免疫の延長上に炎症やアレルギーがある、とイメージされる方もあるかもしれませんが、免疫とは体を正常範囲内に保つため(生体恒常性維持)のシステムですから、免疫を活性化するということは調節力が高まるということです。過剰な炎症やアレルギーや、感染に弱いのは調節力が弱っている結果なのです。免疫は加齢やストレスで低下しますが、現代人は、環境からの刺激による活性化の機会も少なくなっています。LPSの摂取は、そうした状態において、病気の予防と改善に役立つと言えるでしょう。

  1. Strachan DP. Hay fever, hygiene, and household size. Bmj. 1989;299(6710):1259-60.
  2. Braun-Fahrlander C, Riedler J, Herz U, Eder W, Waser M, Grize L, et al. Environmental exposure to endotoxin and its relation to asthma in school-age children. The New England journal of medicine. 2002;347(12):869-77.
  3. Montenegro D, Kalpana K, Chrissian C, Sharma A, Takaoka A, Iacovidou M, et al. Uncovering potential 'herbal probiotics' in Juzen-taiho-to through the study of associated bacterial populations. Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2015;25(3):466-9.
  4. Mitsui H, Watanabe T, Saeki H, Mori K, Fujita H, Tada Y, et al. Differential expression and function of Toll-like receptors in Langerhans cells: comparison with splenic dendritic cells. The Journal of investigative dermatology. 2004;122(1):95-102.
  5. Smythies LE, Sellers M, Clements RH, Mosteller-Barnum M, Meng G, Benjamin WH, et al. Human intestinal macrophages display profound inflammatory anergy despite avid phagocytic and bacteriocidal activity. The Journal of clinical investigation. 2005;115(1):66-75.
  6. Vreugdenhil AC, Snoek AM, van 't Veer C, Greve JW, Buurman WA. LPS-binding protein circulates in association with apoB-containing lipoproteins and enhances endotoxin-LDL/VLDL interaction. The Journal of clinical investigation. 2001;107(2):225-34.

 

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