ニュースリリース

─1984年12月31日 信濃毎日新聞記事─

借り腹の遺伝学 「便利な発現”装置”できる」
明治薬科大グループ

遺伝子の分離、機能検証
不要になる名人芸

高等動物のさまざまな遺伝子を培養細胞の中で働かせ、タンパク質を作らせてその働きを調べることができる、非常に便利な遺伝子発現”装置”を明治薬科大の杣源一郎(そま・げんいちろう)助手(衛生化学)らのグループが開発した。

装置といってもウイルスから取り出した一連の調節遺伝子。調べたい遺伝子をサンドイッチのように挟み込んで、プラスミド(小型の環状遺伝子)に組み込み、培養細胞に取り込ませると、どんな遺伝子でも容易に発現することができる。

この新装置を使えば、将来動物発生のメカニズム解明やフェニールケトン尿症などの遺伝病治療も夢ではなくなるという。

人を含む高等動物の遺伝子が分離できるようになり、遺伝子を培養細胞内や生物体内で働かせて、その機能を検証するという”借り腹の遺伝学”が盛んになってきた。

このため、いろいろな”借り腹法”(実験系)が開発されているが、これまでのは遺伝子操作が複雑なうえ、遺伝子ごとに方法が異なって、いわば名人芸が必要だった。これに比べて「新開発の方法はだれでも簡単にできる」(杣助手)のが特徴。

杣助手は動物にガンを起こすウイルスの遺伝子構造を研究しているうちに、非常に都合のよい一連の調節遺伝子群があるのを見つけた。遺伝子の構成単位である塩基対の数にして約200という短い遺伝子配列の中に、細胞内で遺伝子を働かせるのに必要な”道具”が全部そろっているのだ。

まず頭の方には、遺伝子に刻まれたタンパク質の設計図を「ここから読み取れ」と転写酵素にサインを出す「プロモーター(転写開始信号)と、その転写量、つまり作り出すタンパクの量を調節する部分、そして一番しっぽには遺伝子はここで終わりと転写酵素の読み取りにストップをかける「ポリAシグナル」(終了信号)がある。

中央部分には、遺伝子を切る”はさみ”である制限酵素によって切断できる場所が二カ所あり、うち一カ所は「SMA1」という制限酵素で、丸太を輪切りにするように切り口がきれいに切れる。このため、この部分にいろいろな種類の遺伝子を簡単に、挟み込むことができるという。

杣助手は、この”発現装置”にKラスと呼ばれるガン遺伝子や、ヘモグロビンのタンパク部分を作るグロビン遺伝子をセット。これをプラスミドに組み込み、アフリカミドリザルやマウスから取り出して作った培養細胞系に入れた。

丸二日後には、それぞれの遺伝子が働いている証拠であるタンパクの生産が確認された。

また、京都大理学部でも、ニワトリの目水晶体のタンパクであるデルタ・クリスタリンの大きな遺伝子(約六千塩基対)を使って、この”発現装置”がうまく働くことを確かめた。しかし、生体から採取した直後の培養細胞では、必ずしもうまく働かず、万能の装置ではなかったという。

杣助手は当面、サケの各種ホルモン遺伝子をホ乳動物に組み込んでどんな影響が出るか、またメタロチオネインという有害金属を、体内から除去する酵素の遺伝子の働きの調節機構を探る実験を計画している。

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