LPS(リポポリサッカライド)とは、「糖脂質」といわれる、水溶性の糖と脂溶性の脂質が結合した物質のことで、自然界のさまざまな場所に存在する「グラム陰性細菌」の細胞壁に存在しています。
あまり聞きなれない名称だと思いますが、実は細菌学者のなかでは100年以上前から研究対象となっている物質。過去には菌が産生する感染症などを引き起こす化学物質として認識されていたLPSですが、その後の研究でアトピー性皮膚炎の改善や胃潰瘍の予防など、人体にとって有用な働きをすることがわかってきました。また、近年の研究によって、インフルエンザの予防にも役立つことがわかっています。なぜLPSがインフルエンザの予防に役立つのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
この記事の目次
LPSとインフルエンザの関係
2017年に「Bacterial Lipopolysaccharide Destabilizes Influenza Viruses(
細菌のLPSはインフルエンザウイルスを不安定化する)」という論文が発表されました。
その論文では、LPSがインフルエンザやその他の呼吸器系感染症の予防に役立つことが示唆されています。では、LPSがインフルエンザなどの予防にどう役立つのか、関係性を見ていきましょう。
LPSはインフルエンザAウイルスの活性を抑制する
インフルエンザにはいくつか種類がありますが、そのうち「インフルエンザAウイルス(IAV)」は、冬に日本国内で流行するインフルエンザの原因のひとつとなるウイルスです。数年~数十年単位で世界的な大流行を起こすウイルスでもあり、毎年世界の成人の5~10%、子どもの20~30%が感染しているといわれています。
LPSは、インフルエンザAウイルスと結合することでウイルスの形態を変化させ、不活性化(感染力がない状態にすること)する効果があることがわかったのです。また、不活性化の効果は温度を37℃以上に保つと、とくに顕著になることがわかっています。
論文によると、37℃以上で不活性化の効果が高まる理由について、高温にさらされることでウイルスの立体構造が変化し、LPSとの結合部位が露出される(=くっつきやすくなる)からではないかとされています。
LPSにはインフルエンザワクチンの効果を高める働きがある
LPSには、インフルエンザAウイルスを不活性化するだけでなく、インフルエンザワクチンの効果を高める働きがあることもわかっています。そもそもワクチンとは「獲得免疫」を利用した病気の予防法です。私たちの体内では、病原菌などが侵入した際に「抗体」が作られます。
抗体には、抗体ができるもととなった異物に反応し、除去する働きがあります。そのため、次に同じ異物が体内に入ってきたとしても、無症状・軽症で済むのです。ワクチンはこの原理を利用したもので、あえてウイルスの一部などを体内に入れることで抗体を作り出すよう誘導します。
つまり、インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスの一部などを投与して、インフルエンザウイルスに対する抗体を作ることで、インフルエンザにかかっても無症状・軽症で済むようにしているのです。
しかし、インフルエンザウイルスの成分のみを投与しても、60%程度の抗体しか誘導されないことが判明しており、より効果的に抗体を誘導するにはアジュバンド(助け)が必要となります。
LPSはアジュバンドとして有能で、インフルエンザウイルスと同時投与することで抗体産生が高まることがわかっています。
インフルエンザはサイトカインストームで重症化する
普通の風邪が重症化するケースは少ないのですが、インフルエンザは免疫が低下している人や子どもがかかると重症化し、肺炎や急性脳症などになることがあります。インフルエンザが重症化する原因は、「サイトカインストーム」です。
私たちの体には、外部から侵入した病原菌などと戦って、健康を保つための免疫が備わっています。そして、その免疫を担う細胞からは、「サイトカイン」というタンパク質が分泌されています。
各細胞から分泌されたサイトカインは、複雑なネットワークを作って情報を伝達し、お互いに作用し合うことで免疫を制御しています。
しかし、ときに体内に入り込んだ病原菌を排除しようとサイトカインが過剰に分泌されてしまうことがあるのです。その結果、免疫が暴走してさまざまな炎症反応を起こし、自身の細胞まで傷つけてしまいます。これが「サイトカインストーム」です。
インフルエンザにかかったときに、インフルエンザウイルスを排除しようとサイトカインが過剰に分泌されると、サイトカインストームが起こって重症化してしまいます。
サイトカインストームを防ぐには免疫力を維持する必要がある
インフルエンザの重症化を招くサイトカインストームですが、インフルエンザにかかった人全員に起こるものではありません。どんな人がサイトカインストームが起こるかは明確になっていませんが、免疫力が低下している人が起こりやすいといわれています。そのため、とくに免疫力が低下している妊婦や高齢者、基礎疾患がある人などは、インフルエンザワクチンを接種して重症化を防止するよう推奨されているのです。
また、健康状態に問題はないという人でも、強いストレスや睡眠不足、栄養の偏りなどで免疫力が低下することがあるので、免疫力を下げない生活を心がけましょう。
なお、サイトカインストームが起こった場合に、炎症反応を抑えるためにステロイド剤が投与されるケースがありますが、それにより免疫が完全に抑え込まれてしまうと、ウイルスが増殖して病状が悪化することがあります。
炎症を抑えるには、サイトカインストームのリーディングサイトカイン(原因となっている主要なサイトカイン)をブロックする必要がありますが、その結果、基本的な免疫力が低下するような結果になってはいけないのです。
免疫力を高めるにはLPSが重要
サイトカインストームを起こさないようするために重要な「免疫」について、もう少しくわしく見ていきましょう。
前述のとおり、免疫とは外部から侵入した病原菌などから、体を守るために備わっている機能です。
外敵に対抗するために外敵を食べて抗体を作らせる反応を「自然免疫」、前回と同じ外敵が入ってきた際に、すでに作ったことのある抗体で防御しようとする働きを「獲得免疫」といいます。
なかでも、マクロファージという細胞は全身に存在しており、免疫機能の司令塔となるほか、病原菌を食べて退治してくれたり、老廃物を除去してくれたり、神経を修復してくれたりと重要な役割を担っています。
そのため、健康を保つにはマクロファージが元気であることが非常に重要なのですが、マクロファージは加齢やストレスなどの影響で弱ってしまう性質があります。そこでここでも役に立つのがLPSです。
マクロファージを活性化させるものには乳酸菌や酵母などもありますが、LPSはそれらに含まれる成分よりも少ない量でマクロファージを活性化させることができるのです。
LPSを摂取する方法
「LPSなんてどうやって摂取するのか」と思う方も多いと思いますが、実はLPSは小麦やお米などの穀類、ほうれん草やじゃがいもといった野菜、めかぶなどの海藻類やきのこ類など、身近な食物に含まれています。
とくに、穀類や野菜の皮などに多く含まれるので、なるべく玄米や全粒粉といった未精製のお米や小麦を選んだり、野菜の皮を剥かずに食べたりするのがおすすめです。
そのような食事を取るのがむずかしいという場合は、素材を乾燥させて作る漢方薬や青汁、LPSを含むサプリメントなどを摂取するのもよいでしょう。LPSが含まれる食材を積極的に摂取し、インフルエンザ対策をしてみてはいかがでしょうか。
LPSは土の中などに存在するため、野菜や穀物、海藻類などに豊富に含まれています。しかし、農薬などによって細菌が取り除かれるとLPSも少なくなってしまうため、近年食事から取り入れられるLPSはどんどん低下していると言われています。そのため、サプリメントを利用したり、肌への効果を期待する場合は化粧品などを利用したりするのがおすすめです。