麻疹や水ぼうそうなどの感染症は「一度かかるとかかりにくい」といわれますが、それは免疫細胞の働きが関係しています。免疫細胞には複数の種類があり、互いに連携しながら病原体と戦うのですが、中には「一度体内に侵入した外敵を記憶し次の侵入に備える」という働きをもつものもあるのです。
ここでは、免疫細胞の種類やそれぞれの役割などを詳しく解説。後半では、免疫力を高める方法を紹介していますので参考にしてみてください。
この記事の目次
免疫とは
免疫の役割の一つは、外部から侵入してきた病原体などを「非自己」と認識して排除する防衛機能です。風邪を引くと熱や咳が出ますよね。これは体温を上げて高熱に弱い病原菌を殺したり、咳やくしゃみという形で体外に排出しようとする免疫の働きによるものです。
また、インフルエンザの予防接種をしておくと、もしかかっても軽くすむと言われるのは、ワクチンによってあらかじめインフルエンザに対する免疫(抗体)ができているからなのです。では、免疫の種類や働きをさらに詳しく見ていきましょう。
自然免疫と獲得免疫
免疫には大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。自然免疫は生まれつき人間の体に備わっている免疫、一方で獲得免疫は一度体内に侵入した異物を記憶し、二度目以降に反応する後天的な免疫です。それぞれがどのような仕組みで働いているのか、詳しく見ていきましょう。
自然免疫とは
自然免疫は生まれつき人間の体に備わっている免疫で、細菌やウイルスなどの異物を食べて除去する食細胞を中心に構成されています。食細胞は自分たちと異なる分子や構造を認識する受容体を持っており、異物の処理・排除を促すタイプと細胞内で信号の伝達を起動するタイプに大別されます。
・好酸球:呼吸器や腸管などに存在する白血球中の細胞の一つで、細菌などの病原体や異物を処理する働きがあります。特に寄生虫感染が起きた際に増加して寄生虫を攻撃するという特徴がありますが、一方でアトピー性皮膚炎の原因になることもあります。
・好中球:白血球中の50%以上を占める細胞で、特に細菌などの病原菌を処理します。異物の方へ向かう運動走化性、異物を取り込む貪食能、酵素で異物を分解する殺菌能などの働きがあります。
・好塩基球:白血球中の細胞の一つで大きさはさまざま。好酸球や好中球の移動をサポートしたり、寄生虫から体を守ったりしますが、ヒスタミンを放出してアレルギー反応を引き起こすこともあります。
・マクロファージ:白血球の中で一番大きい単球という細胞が血管外へ出て変化したものです。好中球と似た働きがありますが、やや遅れて異物に到達します。異物を貪食した後、その情報を免疫機能の指令役であるT細胞に伝える免疫能を持っています。
・樹状細胞:名前のとおり、木の枝が四方八方に伸びたような形をしています。異物を取り込んで特徴を覚え、T細胞に伝えて攻撃を指示する他、これまで異物(抗原)に接したことのないT細胞(ナイーブT細胞)を活性化するという役割も担っています。
・NK細胞(ナチュラルキラー細胞):独自に体内をパトロールし、ウイルスに感染した細胞やがん細胞だけでなく、これまで出会ったことがなくても異常と認識した細胞を傷害する性質を持っています。
獲得免疫とは
獲得免疫とは、感染した病原体を記憶し、再度遭遇した時に効果的に排除できるようになる仕組みです。自然免疫に比べると応答するまではやや時間が長くかかりますが、さまざまな病原体に反応する多様性を持っています。一度感染した病原体に対して耐性がつき、感染・発症しにくくなったり、軽くすんだりするのは獲得免疫の働きによるものです。
・B細胞:病原体や異物などの抗原が侵入してきた際に、危険なものかどうか判断し、危険と判断した場合は対抗物質(抗体)を産生・分泌するようになります。免疫の働きによって抗原が排除されると、メモリーB細胞となって、次の侵入に備えます。
・形質細胞:抗原の刺激によってB細胞から分化してできる細胞です。抗体を大量に産生する働きがあることから、抗体産生細胞とも呼ばれます。
・ヘルパーT細胞:ナイーブT細胞から変化したエフェクター(機動型)T細胞の一つで、サイトカインという物質を産生してB細胞を活性化し、B細胞とともに異物が危険なものか判断したり、抗体産生を助けたりする働きがあります。攻撃の戦略を練る司令塔のような役割もします。
・キラーT細胞:ヘルパーT細胞の指示でウイルスに感染した細胞やガン化した細胞など、生体にとって不要・危険な細胞を殺傷・除去します。
・制御性T細胞:免疫が自己に対して働かないように抑制し、免疫異常を起こさないようにしている細胞で、ヘルパーT細胞の約5%を占めるとされています。抗原の処理が終わると、免疫反応を停止するように命令を出します。
・メモリーB細胞:ヘルパーT細胞によって刺激されたB細胞の一部で、抗原の情報を記憶しています。次に感染した時にはより迅速に、抗原に適した抗体を大量に産生することができます。
免疫細胞が働く仕組み
病原体などの異物が侵入してくると、まず自然免疫が働き、貪食細胞である好中球やマクロファージが反応して異物を食べて処理します。それだけでは追いつかないと、マクロファージがリンパ節に移動して、ヘルパーT細胞に異物の情報を伝え、攻撃の指示を出します。
ここからが獲得免疫の出番です。ヘルパーT細胞はサイトカインという物質を出してNK細胞を活性化させ、B細胞の抗体産生を促します。また、B細胞は形質細胞に分化し、抗体を大量に産生して異物を攻撃します。最後に登場するのがキラーT細胞です。他の細胞がやられてしまった時に、抗原を攻撃して処理します。
抗原がいなくなると、制御性T細胞が働いて、すべての細胞の攻撃を終了させます。B細胞の一部は抗原を記憶するメモリーT細胞となって、次の侵入に備えます。
免疫細胞の種類と特徴
免疫細胞は白血球中に存在し、赤血球や血小板などの他の血液細胞とともに血液中を流れています。見た目も働きも異なるこれらの細胞の源は、実はすべて同じ造血幹細胞という血液を作る細胞です。そこから分化した免疫細胞は、さらに分かれて顆粒球やT細胞、B細胞へと変化していきます。
また、好酸球や好中球などの顆粒球やB細胞は、造血幹細胞の生まれる骨髄で作られ、成熟して血液中に出ていきますが、T細胞だけは造血幹細胞から初めに造られる前駆細胞の状態で胸腺へと移動していきます。胸腺は心臓の少し上にある臓器で、T細胞を作るためだけに存在していると言われています。胸腺で増殖・成熟したT細胞もまた、血液中に出ていき、脾臓やリンパ節といった免疫反応の現場でB細胞と出会い、協力体制をとるようになります。
免疫力を高めるためにするべきこと
人間の体を守る免疫の働きは、加齢によって徐々に低下していきます。免疫細胞を作る分化機能が落ち、数が減るだけでなく、免疫細胞そのものの機能も衰えてくるので、感染症にかかりやすくなります。
また、不規則な生活習慣や偏った食事、睡眠不足、ストレスなども免疫力の低下につながりやすいので注意が必要です。風邪を引きやすくなった、口内炎ができやすい、虫歯が増えたといった場合は、免疫力が低下している可能性があります。心当たりのある人は生活習慣を見直してみるとよいでしょう。
ここでは免疫力を高めるポイントを解説します。ぜひ参考にしてください。
腸内環境を整える
腸には全免疫細胞の約7割が存在していると言われています。腸は口とつながっているため、さまざまな病原菌やウイルス、異物などが入ってきます。そのため、異物を排除して健康を維持するために、多くの免疫細胞が必要なのです。
免疫細胞がその力を発揮するために重要なのが腸内環境です。大腸から小腸にかけて、およそ1000種類、1000兆個以上もの細菌が存在し、腸内環境のバランスを整えています。腸内細菌には、腸によい働きをする善玉菌の他に、有害物質を作り出す悪玉菌、優勢な方に味方する日和見菌の3種類があるのですが、免疫力を高めるにはこのうちの善玉菌を増やし、日和見菌を味方につけて、腸内環境をよい状態にすることが必要とされています。
動物性たんぱく質や脂質が多く、野菜類が少ないという偏った食生活は、腸内環境の乱れにつながります。悪玉菌が増加することで免疫力の低下だけでなく、肥満や糖尿病、動脈硬化などの疾患リスクが高くなる恐れもあります。
そのため、腸内環境を整え免疫力アップを図るためにはヨーグルトや納豆、味噌など、乳酸菌などの善玉菌を含む発酵食品と、善玉菌のえさとなる食物繊維やオリゴ糖などを積極的に摂取しながら、栄養バランスのとれた適量の食事を心がけましょう。
体温を上げる
人間の体の機能が正常に働くための理想の体温は36.5度とされています。しかし、現代人は生活の中で体を動かす機会が減っているためか、平熱が35度台という人が珍しくありません。
体温が1度下がるだけで、免疫の主役である白血球の働きは30%低下します。しかし、反対に1度上がれば免疫力は一時的に5~6倍にもなると言われています。真夏でも冷たいものを飲みすぎない、入浴時はしっかり湯船につかる、軽い運動を日課にするなど、体を冷やさない・温めることを心がけましょう。
さらにm運動不足は血行不良になりやすく、免疫機能の低下にもつながります。適度な運動は体温を上げて血流を促進するため、毎日30分程度のウォーキングや筋トレなど、負担になりすぎない程度の運動を続けるとよいでしょう。
ストレスを解消する
子供から大人、高齢者まで、ストレスを感じていない人はいないと言われるほど、高ストレス社会となった現代。ストレスは心身にさまざまな悪影響を与えます。免疫力も例外ではなく、免疫が働くシステムも自律神経によってコントロールされています。
例えば、活動時には交感神経が優位となり顆粒球が増加する、休息時には副交感神経が優位となることでリンパ球の比率が高くなるといった具合です。ストレスによってこのバランスが崩れると、免疫細胞の働きが低下し、病原菌や異物に対する抵抗力も弱くなるのです。
免疫力を高めるために、ストレスは上手に解消しましょう。
- 体を動かす
- 大声を出す
- 歌う
- 没頭できる趣味を持つ
- 思い切り笑ったり泣いたりできる機会を持つ
など、自分なりの解消法を複数用意しておくことをおすすめします。
免疫力アップに役立つ食べ物を摂る
免疫力は日々口にする食べ物と大きな関わりがあり、免疫力を高めて健康な体を作るためには食生活の見直しがとても重要です。免疫力アップに効果が期待できる以下の食材を積極的に摂流ようにしましょう。
- 胚芽米や玄米
- 海藻
- きのこ
- 煮干しなどの小魚
- 発酵食品(納豆、ぬか漬け、味噌、ヨーグルト)
- 緑黄色野菜(ブロッコリー、ニンジン、ほうれん草)
- 大豆・小豆
- 果物(バナナ、柑橘類、キウイフルーツ)
詳しくはこちらの記事もご参照ください。
LPSを摂取する
LPS(リポポリサッカライド:糖脂質)は、地中や空気中、食物などさまざまな場所に存在するグラム陰性細菌の細胞膜の一番外側に埋まっている物質で、免疫力をアップする働きが期待できると最近注目されています。
LPSは免疫細胞の一つであるマクロファージを活性化すると言われています。マクロファージの表面には多くのレセプター(受容体)があり、様々な物質を捉えているのですが、このうちTLR4というレセプターがLPSと結合すると、マクロファージの核に活性化のシグナルが伝達され、病原体やウイルスなどの異物を攻撃したり、ガン化した細胞などの異物を食べて処理したりする力が高まるのです。
LPSは主に土の中に存在する菌由来の成分です。そのため、根菜類や葉物類など畑で育つ野菜や、米や麦などの穀類、海中の土で育った海藻類に多く含まれています。
穀類では糠や胚芽の部分にLPSが豊富なため、精米していない玄米の方が多く摂取できます。同じ理由で、レンコンなど皮付きの根菜もおすすめです。土を落としても皮の部分にLPSが残るので、できるだけ剥かずに食べるようにしましょう。また、めかぶやワカメはLPSの含有量が特に多い食品です。海中で育つので、農薬や化学肥料の影響も受けません。ただしLPSは高温調理で壊れやすいので、生で食べられるものはそのままで、加熱する場合もできるだけ短い時間で仕上げるようにしてください。
質のよい睡眠をとる
睡眠不足は健康の大敵です。ある調査では、睡眠時間が7時間以下の人は、8時間以上の人に比べて3倍も風邪を引きやすいという結果が出ています。また、T細胞が異物である抗原の情報を長期間記憶するには、適度な質のよい睡眠が不可欠とされています。
免疫力が維持できるように、以上のような生活習慣に注意してみましょう。
まとめ
以上、免疫機能の基本についての解説と、免疫力を維持するための具体的な方法をご紹介しました。 免疫機能を正常な状態で維持するには、特に食生活や睡眠が重要であることがわかります。私たちの体は食べるものからできている、と言われるくらい普段摂取する食品に影響されるもの。健康な体をつくるためにも、免疫力をアップする食品も選ぶようにしてみてください。文中でご紹介したLPSも免疫力をアップするために効果的です。 そしてできる限り、質のよい睡眠を取るように心がけてみてくださいね。
LPSは土の中などに存在するため、野菜や穀物、海藻類などに豊富に含まれています。しかし、農薬などによって細菌が取り除かれるとLPSも少なくなってしまうため、近年食事から取り入れられるLPSはどんどん低下していると言われています。そのため、サプリメントを利用したり、肌への効果を期待する場合は化粧品などを利用したりするのがおすすめです。