免疫力アップに役立つと言われ、近年注目されている「LPS(リポポリサッカライド)」ですが、一口にLPSと言ってもさまざまな種類が存在します。ここでは、LPSの種類と免疫活性(主としてサイトカインの誘導活性)について詳しく解説します。
この記事の目次
LPSとは
LPSとは、グラム陰性細菌の細胞壁を構成する主成分であり、グラム陰性細菌の外膜に埋め込まれた状態で存在しています。
以前はグラム陰性細菌による感染症の原因になる物質だと考えられていました。しかし、近年の研究によって、LPSを経口摂取した場合には、免疫力向上や動脈硬化予防など、人体に有益な働きをすることがわかっています。
LPSの種類
LPSは「リピドA(LipidA)」と呼ばれる脂質部分に、糖鎖(糖が鎖のように連なった物質)が結合した構造をしています。この「リピドA+糖鎖」という基本構造はどのグラム陰性細菌のLPSでも同じですが、脂質部分と糖鎖部分の構造は、由来するグラム陰性細菌の種類によって異なります。そのため、LPSを種類別に分けるとしたら、ほぼグラム陰性細菌の分類に従えば良いということになるでしょう。
一般に言われている「LPS」はエンテロバクター目の細菌由来LPSを指すことが多い
細菌は門>綱>目>科>属>種と階層的に分類されます。たとえば大腸菌であれば、グラム陰性細菌>プロテオバクテリア門>γ-プロテオバクテリア綱>エンテロバクター目>エンテロバクテリア科>エスケリキア属>大腸菌となります。
大腸菌と同じプロテオバクテリア門>γ-プロテオバクテリア綱にサルモネラやコレラなどの細菌も含まれますが、これらの細菌は病原性細菌(増殖力が異常に高い細菌や、粘膜に穴をあける毒素を持っている細菌)として詳細に研究されてきたので、そのLPSもまた最も研究されてきました。そのため、私たちが普通に調べてわかるLPSは、γ-プロテオバクテリア綱の細菌由来のLPSの性質なのです。
つまり、免疫細胞の活性化力が強く、血管内に注射すると炎症を、場合によっては敗血症をもたらすという「LPSの性質」として出てくる情報は、基本的にγ-プロテオバクテリア綱の細菌由来のLPSの情報であるということです。
γ-プロテオバクテリア綱のLPS
私たちの体にはさまざまな種類の免疫細胞が存在しており、それらがサイトカインというタンパク質を分泌することで情報を伝達しあって、病原性細菌などの異物から体を守っています。そんな免疫細胞のひとつに「マクロファージ」という、体内に異物が入った場合に真っ先に駆け付けて異物を食べて除去し、さらに異物の情報を伝達するという重要な役割を持つ免疫細胞があります。
大腸菌やサルモネラ、コレラなどのγ-プロテオバクテリア綱の細菌由来のLPSは、 このマクロファージのTLR4と結合し、核にシグナルを伝えて活性化させる効果があるのです。
酵母や乳酸菌など、マクロファージを活性化させる成分はいくつかありますが、γ-プロテオバクテリア綱のLPSはそれらの成分よりも少ない量で、効率的にマクロファージを活性化させることができるのです。ただし、γ-プロテオバクテリア綱の細菌由来のLPSであっても、体内に注射する場合と、口から摂取する場合では作用が違います。これはまた別のページでお話します。
γ-プロテオバクテリア綱の細菌以外のLPS
一方、グラム陰性細菌>プロテオバクテリア門>α-プロテオバクテリア綱に属する酢酸菌や、グラム陰性細菌>バクテロイデス門>バクテロイデス綱に属する歯周病菌のLPSの免疫細胞の活性化力は、サイトカイン誘導能から見る限り、とても低いといえます。
LPSによって免疫力がアップするのは、LPSが免疫細胞のレセプター(受容体)であるレセプターと結合し、免疫活性のシグナルを伝達するためです。
酢酸菌や歯周病菌のLPSは、脂質部分の構造が大腸菌などのLPSと異なっており、レセプターへの結合力が弱いため、免疫活性化のシグナルも弱いと考えられています。
酢酸菌のLPS
酢酸菌はアルコールを酢酸に変化させる作用を持つ細菌で、お酢の醸造に活用されています。前述の通り、酢酸菌もグラム陰性細菌の一種なのでLPSを持っていますが、TLR4への結合力が弱いため、免疫活性化のシグナルも弱いといわれています。
しかし、近年の研究で酢酸菌のLPSには、免疫を調整する作用があることがわかってきました。過剰に働いた免疫細胞を抑制する働きがあるため、酢酸菌のLPSを経口摂取すると、花粉症(花粉を異物と判断して免疫が過剰に働きアレルギー反応を起こす)の予防に役立つといわれています。
歯周病菌のLPS
歯周病菌のLPSは歯周病の原因になるといわれることがあるのですが、それは誤りです。歯周病菌のLPSは、γ-プロテオバクテリア綱の細菌由来のLPSなどとは構造が異なっており、TLR4への結合力が非常に弱いので、免疫細胞を活性化したり、炎症を起こしたりする作用はとても弱いのです。
歯周病の根本的な原因は歯周病菌が持つLPSではなく、歯周病菌を排除しきれずに、いつまでも増殖と溶菌(細菌が溶けて死亡すること)が繰り返されていること、つまり歯周病菌の生命活動が継続されていることです。そのため、歯周病を予防・治療するには、歯周病菌の巣である「プラーク」を除去して、歯周病菌を減らしていく必要があります。
γ-プロテオバクテリア綱の細菌由来のLPSを摂取する方法
γ-プロテオバクテリア綱の細菌は土の中などにも存在するため、γ-プロテオバクテリア綱の細菌由来のLPSを摂取するには、野菜や穀物を摂取するのが有効です。
特に玄米や皮つきのレンコン、ほうれん草、めかぶなどに多く含まれているため、こういった食品を積極的にとるとよいでしょう。また、農薬などが使われていると細菌も取り除かれてLPSも少なくなってしまうため、有機栽培や無農薬栽培されているもののほうがおすすめです。
LPSは土の中などに存在するため、野菜や穀物、海藻類などに豊富に含まれています。しかし、農薬などによって細菌が取り除かれるとLPSも少なくなってしまうため、近年食事から取り入れられるLPSはどんどん低下していると言われています。そのため、サプリメントを利用したり、肌への効果を期待する場合は化粧品などを利用したりするのがおすすめです。