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LPSの基礎知識

(9)傷口とLPS

LPSは口から入っても、皮膚に付いても毒性はありません。むしろ自然免疫の活性化に貢献しています。しかし、血液中に注射すると量によっては強い炎症がおこります。では胃腸や皮膚に傷口があった場合はどうでしょうか。傷口から血液中に入って、炎症が起こることがあるのでしょうか。

結論から言うと、遊離のLPSが傷口周辺にあるとして、炎症を誘導するほどの生物活性を保ったまま、傷口から血液中に移行することはとても難しいです。

「LPSの構造と機能」の項で述べたように、LPSはグラム陰性細菌の細胞壁に埋まっている成分で、糖と脂質でできています。体の中には、脂肪もあれば、脂質と結合するタンパク質(代表的な例としては、コレステロールを運ぶLDLなど)も存在します。LPSの活性中心でもある脂質部分は、脂肪やLDLにトラップされ、かつ不活性な状態になります。このことは、血液にLPSを混ぜた後、LPSの量を測定しようとしてもうまく検出できないことでもわかります(*1)。当然ながら強い生物活性もありません。

LPSが血液あるいは臓器に運ばれるためには、生きたグラム陰性細菌の介在が必要です。生きた菌が体内に侵入し、増えて、溶菌したときに、(脂質結合タンパク質では抑制できないぐらい)多量のLPSが、生物活性を保った状態で放出されます。生きた細菌がいない限り、例え傷口周辺にLPSが存在しても、それが炎症の原因になることはまずないといって良いでしょう。

(*1)Endotoxemia—menace, marker, or mistake? J Leukoc Biol.100(4): 687–698 (2016)

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