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LPSと健康維持

(11)LPSの経口摂取で、なぜ認知症が予防できるのか?

2018年に、パントエア・アグロメランスLPS(LPSp)の経口投与によって加齢型認知症の予防効果が見られることが、小林らによって報告されています(*1)。小林らは、老化促進マウスモデルを使って、LPSpの経口投与で脳内のアミロイドβの蓄積が抑えられること、水迷路試験で調べる記憶力の低下が抑えられることを示しています(https://www.macrophi.co.jp/lps/2-7.html)。

続いて2021年、溝渕らが、糖尿病関連型の認知症についても、LPSpの経口投与で予防効果が見られること報告しました(*2)。溝渕らは、ストレプトゾトシンをマウス脳室内に投与して糖尿病性認知症を誘導するモデルにて、LPSpの経口投与で大脳皮質の萎縮と、(認知症と関連している)タウタンパク質のリン酸化が抑制されること、および水迷路試験で調べる学習能力と記憶力の低下が抑えられることを報告しています。小林、溝渕いずれの研究でも、LPSpの経口投与によって体重減少や炎症などの副作用は見られていません。

上述の研究で使われたLPSpの投与量は、~1mg/kg/日ですが、この投与量では、血液中にLPSpは検出されません(*2)。従って、LPSpが直接血液に移行したり脳に運ばれたりはしていません。では、なぜLPSpの経口投与が、離れた場所にある脳内の事象に影響を与えるのでしょうか。

この疑問について、溝渕らは非常に重要な発見をしています。LPSpを経口投与すると、末梢白血球で膜結合型コロニー刺激因子1(mCSF1)が上昇しているという事実です。もともとCSFはマクロファージや単球の増殖や分化を促進する因子として見つかりました。脳内マクロファージであるマイクログリアもCSF1の刺激を受けると増殖が促進されますが、同時に神経保護的な作用が強化されることが判っています(*3)。これらのことを考え合わせると、経口投与されたLPSは、まず消化管粘膜でマクロファージほか免疫細胞を活性化し、この活性化が伝播して末梢白血球でのmCSF1発現につながり、mCSF1の発現が高まった白血球が血液循環する過程で、脳でマイクログリアを刺激し、マイクログリアが神経保護作用を強化する、というメカニズムが予想されます。


LPSpの経口投与は、認知症以外にも様々な疾病の予防改善効果が報告されています(*4)。しかしこれまでそのメカニズムがわかっていませんでした。今回溝渕らが末梢白血球でのmCSF1の発現に気づいたことで、経口摂取LPSpの効果の作用機序が明らかになるかもしれません。ちなみにCSFには遊離型と膜結合型があります。LPSpの経口投与によって末梢白血球で発現が増加しているのは膜結合型CSFだけである、という事も興味深いことです。遊離型であれば、血流に乗って全身にいきわたりますが、膜に結合していると、細胞と細胞の接触によってのみシグナルが伝達されます。このことがどんな意味を持っているのか、今後の研究の進展が楽しみです。

(*1) Oral administration of Pantoea agglomerans derived lipopolysaccharide prevents metabolic dysfunction and Alzheimer's disease-related memory loss in senescence accelerated prone 8 (SAMP8) mice fed a high-fat diet.
PLoS One 1. 13 (6): e0198493 (2018)

(*2) Prevention of diabetes-associated cognitive dysfunction through oral administration of lipopolysaccharide derived from Pantoea agglomerans.
Frontiers in Immunology doi: 10.3389/fimmu.2021.650176 (2021)

(*3) Microglia overexpressing the macrophage colony-stimulating factor receptor are neuroprotective in a microglial-hippocampal organotypic coculture system.
J Neurosci 25: 4442–4451 (2005)

(*4) Applications of lipopolysaccharide derived from Pantoea agglomerans (IP-PA1) for health care based on macrophage network theory.
J Biosci Bioeng. 102 (6): 485-496 (2006)

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