ヒトの結核予防のためのワクチンとして使われるBCGは、フランス語のBacille de Calmette et Guérin(カルメットとゲランの菌)の略です。実態は、牛に感染する結核菌を弱毒化した菌株で、このワクチンを開発したパスツール研究所の科学者の名前で呼ばれている、というわけです。
現在日本では、原則として国民全員がBCG接種を受けているはずです。一度に接種されるBCGの量は、日本薬局方生物学的製剤基準によると、生菌として12㎎と記載されています。BCGの予防注射によって結核発症は52~74%予防され(厚生労働省ホームページより)、予防効果の持続期間は10~15年とされます。国によって用いるBCGの種類に違いがあり、日本では東京172株のBCGが用いられています。
BCGがどのようなメカニズムで結核を予防するかは完全には解明されていませんが、投与されたBCGはマクロファージや樹状細胞に貪食され、続いて一部が抗原として提示されることにより、結核菌特異的な獲得免疫が誘導されます。すなわち体内に結核菌に対する抗体ができるのです(厳密に言うと、結核菌に対する抗体が速やかに作られる状態が確立されるということ)。
ところで、BCGは抗がん剤としても使われています。四国がんセンターのホームページによると、「(膀胱がんの中でも)上皮内がんは隆起性病変を作らないため内視鏡的に完全に切除するのは不可能で、以前は膀胱を全て摘出する(全摘)必要があったが、現在はBCGを膀胱内に注入する治療が第一選択である。上皮内がんに対するBCG膀胱内注入療法により、80~90%でがんが消失する」とのことです。
では結核の予防薬であるBCGがなぜ抗ガン効果を示すのでしょうか?これが現在のところまだはっきりと解明されてはいないようです。けれどもBCGの持つ自然免疫活性化作用に注目が集まりつつあります。免疫学の第一人者である大阪大学名誉教授の宮坂昌之先生は「(臨床に使用できる薬剤の中で)自然免疫を一番強く刺激するのはBCGだとわかっている」と述べていますので、BCGの抗ガン効果に自然免疫の活性化が係わっている可能性は十分にあると思われます。
別ページで述べたように(https://www.macrophi.co.jp/lps/4-4.html)、自然免疫には「訓練された」という状態があり、その「訓練免疫」状態が維持(記憶)されることもわかってきました。2012年に発表された論文では、BCGが単球にエピジェネティックな変化(遺伝子の配列ではなく高次構造の変化)をもたらし、感染時の細菌排除能力を高めるなど自然免疫をより訓練された状態にすることが報告されています(*1)。
BCGの何が、自然免疫で訓練免疫を誘導する機能を持つのか、まだ十分には分かっていませんが、BCGの細胞壁(BCG-CWS(cell wall skeleton))には、ミコール酸、アラビノガラクタン、ペプチドグリカン等があり、それらの分子がTLR2とTLR4受容体を介して自然免疫細胞を活性化することがわかっています(*2)。
ところで、TLR4といえばLPSの受容体です。つまり、BCGはLPSととても構造の似た分子を細胞壁に持ち、その分子がLPSと同じ受容体に結合することを通じて自然免疫を活性化すると考えて良いと思います。どうやらBCGとLPSは共通の機能を持つようです。確かにLPSもまた、コーレーのワクチンと呼ばれ、がん治療に用いられた歴史を持ちます。
そう考えてくると、もし東京172株のBCGが訓練免疫を誘導し、本当にコロナの発症率や死亡率などの重篤化リスクの低減に働くのであれば、LPSも恐らくはBCGと同じ作用を持ち、COIVD-19に対して有効であることが期待されます。注射するワクチンと違い経口摂取するLPSは副作用もなく、コロナ予防にはうってつけの免疫制御物質であると考えて良いでしょう。
(*1)Bacille Calmette-Guérin induces NOD2-dependent nonspecific protection from reinfection via epigenetic reprogramming of monocytes. PNAS 109 (43) 17537-17542 (2012)
(*2)Maturation of Human Dendritic Cells by Cell Wall Skeleton of Mycobacterium bovis Bacillus Calmette-Guérin: Involvement of Toll-Like Receptors. Infect. Immun.,68: 6883-6890 (2000)
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