LPS細胞実験
免疫賦活機能性食品では、ラクトフェリンなど蛋白性の因子もありますが、乳酸菌を主体とした発酵食品、キノコ類、酵母等、微生物が主役になっているものが圧倒的に多く存在します。実は、動植物の免疫系は微生物など環境中の外来異物が自然な形で体内に入ることで活性化されます。活性化の仕組みは「自然免疫」と呼ばれ、この10年の間に、分子レベルでの細胞内シグナルトランスダクション経路の詳細が明らかになってきました。
乳酸菌は、グラム陽性細菌の一種であり、免疫賦活の有効成分は、細胞壁のペプチドグリカンです。ペプチドグリカンは、多糖とペプチド(数個のアミノ酸)から成り、ペプチド部分が架橋し網目のような構造になっています。酵母やキノコの免疫賦活の有効成分はβグルカンです。βグルカンは、グルコースがβ1,3結合あるいはβ1,6結合で連なったものです。いずれも、分子量は加水分解しないものでは数百万ダルトンであり、水溶物は高い粘性を持ちます。一方、グラム陰性細菌由来のLPSも自然免疫を活性化します。LPSは脂質にオリゴ糖ユニットが連なった構造で、オリゴ糖ユニットの結合数によって、分子量は5千から数万ダルトンのラダー分布を見せます。ちなみにパントエア菌のLPSは、分子量5000と分子量45000付近にピークを持つ分子量分布を示します。
ペプチドグリカンやβグルカンは、マクロファージなど自然免疫担当細胞の細胞膜上の外来異物レセプターTLR2(toll-like receptor 2)に結合することで、免疫担当細胞を活性化します。一方LPSは、TLR4と呼ばれる別のレセプターに結合することで、やはり免疫担当細胞を活性化します。
ここでは、グラム陰性細菌;LPS(パントエア菌由来;IP-PA1)と乳酸菌のペプチドグリカン(乳酸菌死菌体)、及び酵母のβグルカン(パン酵母抽出物)のマクロファージ活性化能を比較検討しました。
図1 他の免疫活性化素材との相乗効果
※マウスマクロファージ細胞株NR8383細胞を24時間刺激後の培養上澄のNO産生量をグリース試薬で測定
※マウスマクロファージ細胞株J774.1に、LPS(IP-PA1, 10ng/ml)単独、ペプチドグリカン(乳酸菌死菌体, 10μg/ml)単独、あるいは両者を混合して加え、4時間刺激した後、培養上澄中のIL-12含量をELISA法で測定。
図1の結果から、マクロファージの活性化力の観点からすると、LPSがペプチドグリカンやβグルカンに比較して優位性が高いことがわかります。比活性が高いことは、微量で有効であることを意味します。例えば動物用飼料として与える場合、LPSでは10μg~20μg/kg体重という微量で有効性が見られますが、βグルカンでは50~200mg/kg体重、ペプチドグリカンでは200μg/kg体重で用いられています。一方、興味深いことに、LPSとペプチドグリカンあるいはβグルカンはマクロファージの活性化について相乗効果を示すことが明らかとなりました。このことは、異なるTLRに結合する免疫賦活物質を上手に組み合わせることで、より優れた免疫制御作用が得られる可能性を示しています。
前記の例からもわかるように、TLRからのシグナルは互いにクロストークしていると思われます。例えば、精製したパントエア・アグロメランス由来のLPS(IP-PA1)と、同量のIP-PA1を含有する発酵法で製造したLPS素材を、上記と同様の実験系でマクロファージからのNO産生を比較すると、IP-PA1が10ng/ml濃度のあたりでは、LPS素材のほうが、精製したIP-PA1よりも1.7倍程度高くなります(図2)。LPS素材は、発酵法で製造した素材で、LPSのほか、パントエア・アグロメランスの核酸を微量に含みます。細菌のCpGDNAは、TLR9という別のTLRレセプターに結合してマクロファージを活性化することがわかっていますが、DeNardoらは、TLR9からのシグナルはTLR4からのシグナルによって相乗的に高められることを報告しており*1、LPS素材でもその現象が見られているのではないかと考えられます。
図2 IP-PA1とLPS素材の
マクロファージ活性化能の比較
※マウスマクロファージ細胞株J774.1に、IP-PA1または、同濃度のIP-PA1を含有するLPS素材を加え、4時間刺激した後、培養上澄中のNitrite含量をグリース試薬で測定。
*1 De Nardo, D., De Nardo, C. M., Nguyen, T., Hamilton, J. A., and Scholz, G. M., J. Immunol. 183 8110-8118 (2009)
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