LPSヒト経口投与試験
近年になり、花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患が増加しています。この原因のひとつは、生活が土や家畜と離れ、環境中に存在するLPSへの暴露が減少し、もともとLPSの吸収によって成熟するようになっている免疫系のバランスが不均衡になっているからではないか、と考えられています。一方このことは、質と量をコントロールしてLPSを摂取することで、アレルギーの予防改善が可能であることを示唆しています。
ここでは、その可能性を支持する例として、ヒトでのアトピー性皮膚炎症例に対してLPS(パントエア菌由来;IP-PA1)を内服適用した臨床例を紹介します(帝京大学溝口病院にて実施)。
経口剤によるLPS療法の臨床応用を行い、経過を皮膚科医により経時的に観察できた5例の症例の概要は「資料1」に示すとおりです。症例は、すべて皮膚科医によりアトピー性皮膚炎と診断された患者です。何れも、難治性で経過の長い症例です。投与はLPS溶液(1μg/ml in 50%(w/v)グリセリン)を1回1ml、1日3回経口腔内に行いました。結果のまとめを表1に示します。5例中4例に、皮疹および掻痒感の改善が観察されました。症状あるいは他覚所見の増悪した症例はありませんでした。また、著効の見られた2例に関しては、経過の詳細を以下の「資料2」に示します。
本試験は、ダブルブラインド法あるいはケースコントロールスタディーではありません。しかし、症例の多くは、他の治療法に抵抗性で経過の長い例ですが、経口剤で5例中2例が著効であり、かなりの高頻度です。この2例は単なるプラセボ効果とは考えにくく、また、これらの患者は極めて、感謝していたことが報告されています。
表1
経口腔 | |
症例数 | 5 |
臨床効果 | |
著効 | 2(40%) |
有効 | 2(40%) |
不変 | 1(20%) |
悪化 | 0(0%) |
有効率 | 4 / 5(80%) |
アトピー性皮膚炎症例概要
自覚症状(掻痒感)は患者の訴えにより、軽度、中等度、高度に分類
投与後の皮疹の状態は、自他覚所見により軽度、中等度、著明改善、不変、悪化に分類
投与後の自覚症状(掻痒感)、軟膏の使用量は患者のコメントをそのまま記載
LPS溶液(1μg/ml in グリセリン)を1日3回、1回に1ml 服用させた。
投与後、2週間及び2ヶ月に外来受診し効果を評価した。
症例4
34才、女、主婦
診断:アトピー性皮膚炎
既往歴:4才小児喘息、10才よりアレルギー性鼻炎
現病歴:
7才より、全身性に掻痒感を伴う慢性の乾燥性の皮疹が出現し軟膏による治療を受けていたが、増悪と軽快を繰り返していた。当時は、皮膚科にて診察を受けるもアトピー性皮膚炎と、はっきりは診断されていなかった。
29才に全身の皮疹が極めて強度となり、皮膚科受診し、アトピー性皮膚炎の診断を受け、ステロイド軟膏による治療を受ける。
30才に視力低下を生じ、眼科にてアトピー性白内障と診断され、右水晶体摘出手術を受ける。その後も、皮疹は増悪を繰り返すため、都内の二箇所の大学病院の皮膚科受診した。そこでステロイドおよび抗ヒスタミン軟膏による治療を受けるも軽快しなかった。
34才より経口剤によるLPS療法を受ける。投与3日後より皮疹は軽快し、投与後1ヶ月には皮疹はほとんど消失し軽度の発赤を残すのみとなる。その後、現在までLPS療法を継続しているが、時に皮疹が出現するも数日で軽快している。
症例5
34才、男、公務員
診断:アトピー性皮膚炎
既往歴:特記すべきことなし
現病歴:
6才より慢性の皮疹が出現し、ステロイドクリームによる治療を繰り返し受けてきたが、あまり軽快しなかった。皮膚科にてアトピー性皮膚炎の診断を受けた。
20才より、皮疹が増悪し、ステロイドの内服および塗布を行うも、増悪と軽快を繰り返す。
27才より、皮疹の増悪および掻痒感などの自覚症状が極めてひどくなり、都庁に勤務し仕事を続けることが困難となり、配置転換となる。
32才より皮疹はさらに増悪し、掻痒感などの自覚症状も耐えがたくなり、休職し順天堂大学医学部に一ヶ月間に渡って入院、ステロイド療法と紫外線照射療法を受ける。しかし効果は一時的であった。
34才、経口剤によるLPS療法を開始する。約二週間の使用より、皮疹は改善し、二ヵ月後には、殆ど皮疹、掻痒感は消失する。現在までLPS療法を継続しているが、時々軽度の皮疹が出現するのみで経過している。
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