LPS動物経口投与試験
本試験では、マクロファージの活性化作用を持つLPSの経口投与がアルツハイマー病の予防につながるかどうかについて検討しました。
本試験ではアルツハイマー病のモデルとしても使われるSAMP8マウスを使っています。SAMP8マウスは老化が促進されているマウスですが、その老化は高脂肪食の摂取によって早まります。そこで、本試験では、SAMP8マウスに低脂肪食を与える群、高脂肪食を与える群、及び高脂肪食を与えつつもLPS(1mg/kg/day)を摂取させる群の3群において、18週後の体重、脂質マーカー、炎症マーカー、マイクログリアのアミロイドβ貪食能、脳内アミロイドβ蓄積量、記憶機能を比較しました。
老化/アルツハイマー病モデルマウスでの試験
※SAM: Senescence Accelerated Mouse(老化促進マウス) 京都大学の竹田俊男(現SAM研究協議会会長、京都大学名誉教授)らにより、AKR/J系マウスと未知の系統との不測の交雑が生じたマウスコロニーから、老化度評点の加齢依存的な急速な増加を指標として確立されたマウス系統。アルツハイマーモデルとしても利用される。
高脂肪食群は低脂肪食群に比較して体重増加速度が有意に高まっていました。これに対し、高脂肪食を与えつつもLPSを摂取させた群では、体重増加が抑制される傾向が示されました。また血漿中脂質マーカーである総コレステロール、中性脂肪、LDLについては、高脂肪食群は低脂肪食群に比較して有意に高くなっていましたが、LPS摂取群では低脂肪食群と同等の値となっていました。さらに血漿中炎症性マーカーであるTNFとIL-6についても、高脂肪食群は低脂肪食群に比較して有意に高くなっていましたが、LPS摂取群は、低脂肪食群と差がありませんでした。
アルツハイマー病で脳内蓄積が報告されているアミロイドβですが、アルツハイマー病の悪化因子であるか結果であるかについて明確な答えは出ていません。しかしアミロイドβの中で、神経細胞を犯す作用のあるタイプがあることがわかっています(ref)。これらのアミロイドβは、健康であれば、脳内のマクロファージ細胞であるマイクログリアが処理してくれています。逆にアルツハイマー病では、マイクログリアがアミロイドβを処理する能力が落ちていると言われています。低脂肪食群のマウスから抽出したマイクログリアのアミロイドβ貪食能を100とした場合、高脂肪食群で貪食能は低下し、LPSを与えた群では低下が見られませんでした。(有意差無し)。
図1 マイクログリアのアミロイドβ貪食能
アミロイドβには、いくつかのタイプがありますが、1-40と1-42は、神経を侵す作用が認められています(ref)。いずれも高脂肪食群で有意に増加しますが、LPSを与えた群では低脂肪食群と差がないことが示されました。
図2 脳内アミロイドβ蓄積量
アルツハイマー病で低下する記憶に関する実験を行いました。本実験では、水を張ったプールの1か所に透明なプラスチック製のプラットホーム(=足場)を置き、このプールの中でマウスを泳がせます。何度かの水泳をさせた後、水中のプラットホームをとり除いてマウスを泳がせると、元プラットホームがあった位置を記憶しているマウスは、そのエリアを泳ぎ回り、記憶していないマウスは、それ以外のエリアも泳ぎ回ります。そこで、一定時間泳がせる中で、元プラットホームのあったエリアに滞在する時間の長さを記憶力として計測します。その結果、低脂肪食群は60秒中40秒、高脂肪食群は20秒、LPS群は32秒でした。すなわち高脂肪食群では明らかにアルツハイマー病を発症している様子で記憶力が低下しており、元プラットホームのあったエリアの滞在時間が低脂肪食群より有意に短くなりました。一方、高脂肪食を与えていてもLPSを摂取させた群の滞在時間は、高脂肪食群よりも有意に長いことが認められ、記憶力の低下が抑制されることが示されました。
図3 水迷路試験の結果
これらのことから、LPSの摂取は、高脂肪食による脂質代謝障害や炎症を抑制し、アルツハイマー病の発症リスクの低下、及び記憶力の低下を抑制する可能性を示しました。
(出典)
Oral administration of Pantoea agglomeransderived lipopolysaccharide prevents metabolic dysfunction and Alzheimer's disease-related memory loss in senescenceaccelerated prone 8 (SAMP8) mice fed a highfat diet, PLOS ONE | https://doi.org/10.1371/journal.pone.0198493 June 1, 2018
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