─2009年6月5日 日刊工業新聞─ パーソン
自然免疫応用技研社長 河内 千恵氏 インタビュー
新型インフルエンザが拡大している。感染の阻止とともにワクチンの開発が待たれるが、病気にかからないためには免疫力を高めることが不可欠。バイオ技術による機能性糖脂質の開発で「免疫力」向上に取り組む自然免疫応用技研の河内千恵社長に、ベンチャー企業(VB)のあり方などを聞いた。(高松支局長・林武志)
─ 機能性糖脂質とは。
「わが社は糖脂質という素材の製造と卸売り販売が主体。糖脂質は食べたり、皮膚に塗ることで免疫を活性化させる作用がある。ほとんどの食用植物には糖脂質が付着しているが、体内に入る糖脂質が自然免疫で重要な働きをする食細胞(マクロファージ)を活性化させる。ただ食べたり、塗ったりで必要以上に免疫を活性化することはない。この糖脂質を機能性素材として提供しようとしたのはわが社が初。“糖脂質素材のパイオニア”と自負している」
─ 起業のきっかけは。
「老舗の醸造メーカーがこの技術シーズを面白いと思ってくれたのがきっかけ。微生物の培養が酒造業の得意分野で、大学院の恩師がそこの研究所長をしていたこともあり工業化のためのパイロット実験を無償でしてもらった。特許を出願できたことも大きい。自然免疫に関する分子メカニズムの解明が急速に進み、我々のシーズが理解されるようになった」
─ 苦労した点は。
「研究畑の人間は細かく説明したくなるが、ていねいに説明すればするほど相手に伝わりにくくなる。がんばって作った資料も水泡に帰したこともたびたび。知財の実施許諾契約にも時間がかかった。条項が多く、相手にとって煩わしく不快感につながった。大手製薬メーカーなどは別だが、飼料や食品、化粧品業界のほとんどの中小企業では知財に基づく実施許諾契約の習慣がなく、時には、怒り出されるケースもあった。ビジネスは人間関係で成立するが、知財はやはり尊重されるべきだ。このはざまで苦心している」
─ 不況下のVBのあり方は。
「知財を核にしたビジネスが一つのポイント。マンパワーも、資金も、経験も不十分で、マーケティング能力も未熟なVBがほかの企業に押しつぶされないためには、知財を確立、運用し、防御することが重要な戦略になる。研究開発型のVBは、設立当初から競争的研究資金を獲得する必要がある。申請書を書き、ヒアリングを受け、研究開発をし、報告書を書く。相当ハードだが、小さなVBが普通の会社と同じようにやっていては通用しない。少人数、慣れない仕事の傍らだが、宿命だと思って両方やり抜くことだ」
─ 今後の方針と、VB起業家へメッセージを。
「第一のミッションは糖脂質を世の中に出すこと。ヒトの健康を維持するために必要な研究と信じてきた糖脂質を多くの人に知ってもらい、使ってもらって初めて研究者の仕事の意味があったといえる。このための技術や素材、インフラなどのシステムを提供したい。会社を設立してやっと3年だが、起業すると、いや応なく出会いが広がる。素晴らしい人たちとの交流で財産ができる。『人の財産』で事業が成り立つと確信している」
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こうち・ちえ
86年(昭61)広島大院工学研究科終了、工学博士取得。03年徳島文理大健康科学研究所研究員。06年自然免疫応用技研社長。07年香川大医学部統合免疫システム学寄付講座客員准教授。広島県出身、50歳。
自然免疫応用技研株式会社
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