─2011年5月19日 ビジネス香川─
香川の元気印!
自然免疫応用技研
大学の研究者がベンチャーを立ち上げた。手掛ける商品は「免疫細胞を活性化する素材」。食品などに配合して経口摂取することで免疫機能のバランスを保ち、病気や体調不良を改善・予防しようというものだ。
研究の現場からビジネスの現場へ─。自然免疫応用技研の代表取締役・河内千恵さんはこう話す。「大学とは違う、ビジネス界の“壁”をいつも感じています。でも、困っている人がいて、必要としてくれる人がいる。研究者の私たちだからこそ、世の中に出せるものがあるはずだと信じているんです」
高松市林町の県新規産業創出支援センター・ネクスト香川内にある自然免疫応用技研株式会社。9人の社員の内、7人は生物分野のマスター・ドクター課程を修了している。白衣を身につけて、顕微鏡をのぞく姿もあれば、別室にはたくさんの試薬や試験管などが並ぶ。香川大学医学部や農学部などと共同研究を行いながら、研究者として、そして社員として、商品開発を進めている。
「本当は、研究で見つけ出したものをどこかの企業に実用化してもらう、というのが理想です。しかし、企業は全く新しいものを手掛けるリスクはなかなか負えないものです。じゃあ私たちがやろうと。最初は自分たちの手で世の中に出していこうと思ったんです」
河内さんらが長年の研究で見つけ出したもの・・・それは「免疫細胞を活性化させる素材」だ。
病原体や異物が体内に侵入すると、それらを排除しようと種々の免疫細胞群が機能する。しかし、この免疫細胞群の機能のバランスが崩れると、アレルギー性疾患が起こったり、感染症にかかりやすくなったりする。花粉症やアトピー性皮膚炎、メタボリックシンドロームが引き起こす疾患なども、この免疫機能ののバランスの乱れが一因とされている。さらに、年齢を重ねるにつれて免疫機能は衰えていく。
「キーになる免疫細胞を適切に活性化することで、病気の予防や体調不良の改善に繋がると考えたんです」
1991年、小麦に共生しているバクテリア「パントエア菌」から得られる糖脂質が、経口経皮投与で免疫細胞「マクロファージ」を活性化させることを発見した。体内のマクロファージ細胞の表面にある受容体が糖脂質をキャッチして、細胞を活性化するというメカニズムだ。
「元々安全性の観点に基づいて、食用植物由来のものから成分を探していたんですが・・・小麦から見つかったのはたまたまでしたね」。こう話す河内さんだが、パントエア菌の糖脂質の活用は、世界的にもほとんど研究が進んでいない新たな領域だった。それもあって慎重を期したのが安全性だ。「動物に大量に食べさせるとどうなるか、食べさせておいて病原菌を感染させるとどうなるか、病気の動物に食べさせるとどうなるかなど、十数年にわたって実験を繰り返しました。安全性や様々な疾患に対する予防改善効果のデータを積み重ね、『これはいける』という結論にたどり着いたんです」
会社の設立は糖脂質発見の15年後。ついに「世の中に出す」時がきたのだ。
自然免疫応用技研では酒造メーカーに協力してもらい、パントエア菌を発酵培養。その培養液から糖脂質を抽出し、「植物発酵等脂質素材(小麦発酵抽出物)」を作り出す。これを食品メーカーなどが、飲料に混ぜたり、顆粒状のサプリメントやお茶などに加工したりして販売している。
「糖脂質は大きな可能性を秘めていると思います」。食品だけではない。ヒトだけでもない。河内さんは「免疫」が関わるあらゆる場面にその「可能性」があると話す。すでに畜産や水産用の資料としても提供している。「タイやカワハギの養殖場での野外試験では、小麦発酵抽出物を配合した飼料を与えたいけすと、通常の資料を与えたいけすで、感染症拡大時の生存率に大きな違いが出ました。また、免疫のシステムは植物にもあります。動植物の免疫力を高められれば、抗生物質や農薬の量を抑えられるかもしれません」
また、香川大医学部皮膚科の協力を得て、乾燥肌などに対応した保湿クリームの開発も行っている。このクリーム、大阪のNPO法人日本アトピー協会が推薦品として認定している。
「『免疫』とは目に見えない世界です。病気が予防できても、果たしてそれが『免疫細胞の活性化』による効果なのか実証することも難しいですし、農薬に代わる肥料として実用化を目指すなら、製造コストをどうやって抑えていくか・・・ビジネスとして成立させるための課題は多いです」
舞台を“ビジネス”に移してまもなく5年。でも、いまだに戸惑うことばかりだという。「実はひとりで研究していた方が楽なんですけどね・・・」と笑う河内さんだが、それは決して本音ではないだろう。研究や実験で見つけ出したものを「世の中に出したい」。そして─
「『必ず役に立つ』という思いでやっています。『免疫』というのはまだまだ分からないことがたくさんありますが、でも、その『分からないこと』を一つひとつ解明していくことも私たちに与えられた使命だと思うんです」
河内さんらスタッフが胸に抱く大きな夢がある。それは、「お年寄りも安心して暮らせる健康な町づくり」。“免疫細胞活性化”の技術を核とした、大学、病院、NPOや地域をも巻き込んだ町づくりだ。
「減りつつある四国の人口を100万人増やしたいんです。あまりにも道のりの長い、大きな夢ですが・・・」と少し照れた表情で話す河内さんだが・・・「でも、そういう心もちでやっています。健康な町づくりに少しでも貢献していきたいですね」
自然免疫応用技研株式会社
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