自然免疫応用技研株式会社

ニュースリリース

かげ

─2018年2月15日 食品化学新聞─

緊急寄稿

LPS TV番組で“風評”報道
科学的事実について

自然免疫制御技術研究組合研究本部長
新潟薬科大学特別招聘教授
稲川裕之氏

本誌2月8日号「話題の焦点」で紹介したLPSのテレビ番組での偏向的な内容について、LPS研究の第一人者である自然免疫制御技術研究組合の稲川裕之研究本部長より、緊急寄稿を頂いた。近年の自然免疫研究を通じてLPSの有用性が明らかとなるなか、稲川氏は特定のLPSの問題がLPS全体の問題のように報じられたことに深い懸念を示すとともに、あらためてその違いを指摘する。

毒キノコがあるからキノコ=毒、ヘビ毒のように毒性を示すタンパク質があるからタンパク質=毒とは言わないだろう。具体的にこのキノコは毒キノコ、このタンパク質には毒性があるというようにきちんと物質を特定して性質に言及する。当たり前の話である。ところが1月23日19時放送のテレビ番組「たけしの家庭の医学~『認知症を予防する科学』最新研究で発見!認知症を引き起こす原因物質『LPS』~LPSが増加している人が出している独特のニオイとは!?」では様々な種類があるLPSを特定することなくLPS=毒素として放映し、結果として視聴者に間違った科学的知識を発信することになっている可能性があると懸念される。

LPS(リポポリサッカライド)はグラム陰性菌の細胞外膜を構成する糖脂質で、グラム陰性菌は種に対応してそれぞれ異なった構造のLPSを持っている。ちなみにヒトの共生細菌のおおよそ半分はグラム陰性菌であり、これらの共生細菌から種々のLPSが供給されて健康の維持にも貢献していることが近年急速に明かになってきている。LPSは類似性が認められる特徴的な構造からつけられた総称でリポ=脂質、ポリサッカライド=多糖からなる物質を包括的に示す学術用語であり、特定のLPSを示す語ではない。ほとんどのLPSはTLR4(トル様受容体4)を介して作用を示す。一方、番組で取り上げられた歯周病菌で病原性が高いプロフィモナス・ジンジバリスのLPSはTLR2に結合してマクロファージなどの免疫細胞を抑制して歯周病菌が生残するきわめて珍しいLPS。つまり歯周病菌LPS=LPSと言っては間違いなのである。本番組の第一の問題はLPSという総称を、LPSを特定することなく疾患の原因としていることにある。せめて歯周病菌LPSと言う科学的配慮があっても良いと思われる。

本番組中で取り上げられた学術論文の記載は、直接的に歯周病菌LPSが疾病と関連することの証明にはなっていない。加えて表題にある「LPSが増加しているヒトが出している独特の臭い」など科学的に見て不適切な点が多々見られる。例えば、番組では口臭が強い被験者の血液中のLPSが、ハチミツの摂取で口臭の減少とともに下がったとしている。口臭の元は揮発性硫黄化合物(硫化水素やメチルメルカプタン、ジメチルスルファイド)で、口臭が強いというのは産生細菌が増えていることを示す。実際、口臭を除くには舌苔や歯垢の除去が最も効果的である。健康番組であるなら、歯周病菌が慢性炎症を起こし歯周病菌LPSが血中に侵入しやすい状態になると動脈硬化などが起こるリスクが高まること、きちんと歯磨きや歯科でメンテナンスを行う事でそれらの疾患を予防できることを視聴者に伝えるのは最低限必要であると思う。

LPSが毒素と呼ばれたのは、動物に特定のLPSを高濃度に血中や腹腔に注射すると全身性の炎症が誘導されることに端を発している。しかし、LPSが注射される状況は敗血症や炎症のモデルになるが、自然界ではきわめて特殊である。一方、経口・経皮での特定のLPSの日常的な摂取は多様な生理作用(抗アレルギー、炎症抑制、創傷治癒、腸内細菌叢安定化、便秘抑制等)を示す。欧米ではLPSを毒素として扱うよりも、粘膜を介した生理的作用に注目した報告が増えている。植物が健康に成長する上にも共生細菌が重要なことが明らかだが、植物によっては固有のLPSもふんだんに存在している。米、ソバ、コムギなども健康によいとされている未精製状態であれば量的にもかなり多い。加えて、2008年のNHKスペシャル「病の起源」で紹介されているが、都市部に住む現代の子供はLPSが不足しアレルギー体質になっている。LPSはヒトの体に必要だが自ら作り出せない成分であるといえることから、ビタミンと類似性があると我々は考えている。

食経験のある特定のLPSの経口・経皮摂取の有用性を科学的エビデンスに基づいて発信することがLPSの生理的意義をあきらかにする方法であると信じ、我々は長年研究に取り組んできた。日本においても、LPSは毒という観念を脱却して、例えば食用植物の共生細菌が持つ固有のLPSを健康維持に活用するなどの開発を進めることが重要ではないかと考えている。

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